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横浜地方裁判所 昭和52年(ワ)1869号 判決

原告 油壺ボートサービス株式会社

右代表者代表取締役 福留清彦

右訴訟代理人弁護士 金田泉

同 田中秀幸

被告 神奈川県

右代表者知事 長洲一二

右訴訟代理人弁護士 柳川澄

右指定代理人 佐伯昭男

〈ほか四名〉

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金九二三四万四七三七円及びこれに対する昭和五二年六月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  神奈川県東部漁港事務所長のした停係泊の許可申請受理拒否

神奈川県知事(以下「知事」という。)が油壺湾を含む三崎漁港管理のために設置した神奈川県東部漁港事務所(以下「漁港事務所」という。)の所長(以下「漁港事務所長」という。)は、昭和五二年六月一日、原告に対し、原告から同四七年度に停泊、停留又は係留(以下「停係泊」という。)の許可申請があったものの、その受理を留保する扱いをしていた二八隻の船舶(以下「本件未処理船」という。)について、故意又は過失により、違法にもその許可申請受理を拒否した(以下「本件申請受理拒否」という。)。

2  本件申請受理拒否の違法

(一) 改正条例

被告は、昭和四三年三月三〇日、三崎漁港管理条例(昭和三二年神奈川県条例第六号。以下「旧条例」という。)を改正する神奈川県条例第二六号(以下「改正条例」という。)により、油壺湾における船舶の停係泊に関し、被告が指定する水域(改正条例では、「特別泊地」とされる水域。以下「指定水域」又は条例上の文言に従い「特別泊地」という。)内への停係泊は、長期一年毎の知事の許可によることと定め、知事は、同年五月三一日、特別泊地において許可を受けて停係泊できる船舶の定数を一三二隻と定めた。

(二) 改正条例実施決定事項

知事は、改正条例の実施に際し、原告、株式会社京急油壺レストハウス(以下「京急レストハウス」という。)及び山下ボート店のヨット等の管理業者三者との間で左記の合意をし(以下、この合意を「改正条例実施決定事項」という。)、同条例は、昭和四三年六月一日から施行された。

(1) 許可船数は一三二隻とし、そのうち一三〇隻については、前記管理業者三者に割り当てる。配分割当数は、各業者がこれまで提出した管理船名簿により、これまでの船舶の停係泊の実績、岸壁利用料の納付その他の営業実績のある船数等を基準として、原告が九八隻、京急レストハウスが二〇隻、山下ボート店が一二隻とする。

(2) 許可申請手続は、原則として各船舶の所有者が申請し、許可後所定の停係泊料を納付するものとする。

(3) 許可決定には、許可番号を附し、許可番号が附された許可船舶については長期一年とする許可であるが、以後、その許可番号に基づいて、船舶の代替、所有者の変更を認め、毎年継続して許可する。

(4) 各船舶の停係泊の位置は協議して定める。

(5) 管理業者の営業について将来不当な損害や迷惑を与えることなく改正条例を円滑に実施する。

(三) 本件条例

被告は、昭和四四年一〇月一一日、旧条例を廃止し、神奈川県漁港管理条例(昭和四四年神奈川県条例第四四号。以下「本件条例」という。)を制定したが、本件条例施行の際、旧条例の規定によりなされている許可、届出その他の行為で現に効力を有するものは、本件条例の相当規定によりなされた許可、届出その他の行為とみなされる(同条例附則三項)など、本件条例と旧条例とは、油壺湾におけるヨット及びボート(以下「ヨット等」という。)の停係泊に関しては、実質的にほぼ同一のものである。

なお、本件条例施行規則一条八号により、知事は、本件条例に基づくヨット等の停係泊の許可に関する事務を、漁港事務所長に委任した。

(四) 漁港事務所長の許可方針の変更

漁港事務所長は、昭和四七年度の停係泊の許可に当たり、(一)船舶の代替や所有者の変更を認めない、(二)許可船舶は一人一隻に限る、(三)許可申請の代理を認めない、などと許可方針を変更し、原告の許可申請に対し、書類不備を理由に約三〇隻、許可船舶は一人一隻に限ることを理由に一四隻、合計約四四隻分につき、その受理をしなかった。

(五) 許可申請の受理留保

漁港事務所長は、その後、前記約四四隻につき、受理を留保する扱いとし、昭和四八年二月ころ、書類不備とした約三〇隻のうち十数隻、一人一隻制限に反するとした一四隻のうち所有者が変更されて新所有者により再申請された三隻につきそれぞれ許可申請を受理し、停係泊許可決定をしたが、残る二八隻の本件未処理船については、同年度以降もそのままであった。

(六) 本件回答(昭和五一年六月二一日付回答)

原告は、漁港事務所長から、本件未処理船二八隻については新たに許可申請書を提出するように指示されていたので、昭和五一年六月二一日、漁港事務所に許可申請用紙をもらいに行ったところ、担当係官から「申請書は不要であり、理由書を提出すればよい。その上で調査し、許可する方針である。」との回答(以下「本件回答」という。)を受けた。そこで原告は、同月二五日、理由書としてその明細一覧表を漁港事務所に提出した。

(七) 以上のとおり、本件申請受理拒否は、改正条例実施決定事項及び本件回答に反するものであって、違法であるといわなければならない。

3  原告の損害

(一) 原告は、本件申請受理拒否によって管理し得なくなった本件未処理船二八隻を数年前から継続的に管理してきており、本件申請受理拒否がなければ、原告は、今後少なくとも一五年間にわたって本件未処理船二八隻をこれまでどおり管理して収入を挙げることが可能であった。

(二) 原告の本件未処理船二八隻各個の、昭和四九年四月一日から同五一年一二月末日(同四九年度ないし同五一年度)までの三年間における一年毎の売上項目別売上額(ただし、売上項目中の保証金は預り額。以下同じ)は、別紙(本件未処理船二八隻の収入一覧表)第一記載のとおりであり、本件未処理船二八隻全部の右三年間における一年毎及び三年間の売上項目別売上額合計は別紙第二記載のとおりであり、本件未処理船二八隻全部の右三年間の売上項目別売上額合計に関する純利益合計から算出した一年間平均の売上項目別純利益及びその合計額は、別紙第三記載のとおりである。

したがって、原告は、本件未処理船二八隻につき、昭和五二年六月一日以降向う一五年間において少なくとも一年間につき八四〇万九六二八円の純利益を挙げることができるというべきである。

(三) そこで、原告が喪失した今後一五年間における得べかりし利益(損害)は、左記のとおり九二三四万四七三七円となる。

原告の本件未処理船二八隻についての一年間の純利益は八四〇万九六二八円なので、一五年間の中間利息はホフマン式計算方法により控除し、昭和五二年六月一日現在の一時払額を算出すると、九二三四万四七三七円となる。すなわち、

八四〇万九六二八円×一〇・九八〇八三五(一五年のホフマン係数)=九二三四万四七三七円

4  よって、原告は被告に対し、国家賠償法一条一項による損害賠償請求権に基づき、右損害九二三四万四七三七円及びこれに対する損害発生の日の翌日である昭和五二年六月二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1の事実のうち、漁港事務所長が、昭和五二年六月一日、原告に対し、本件申請受理拒否をしたことは認めるが、その余は争う。

2  同2の事実について

(一) 同2(一)の事実は認める。

(二) 同2(二)の事実のうち、(2)及び(4)の合意があったことは認めるが、その余は否認する。

改正条例、規則の制定に際し、被告側において原告ら管理業者と度々話合いをしたことは事実であるが、右話合いは条例、規則の円滑な運用を期するため、あらかじめ原告らの希望を聴取し、かつ被告の方針を説明して協力を求めたにすぎず、一種の行政指導である。

(三) 同2(三)、(四)の事実は認める。

(四) 同2(五)の事実のうち、漁港事務所長が、昭和四八年二月ころ、前に書類不備として受理しなかった約三〇隻のうち十数隻、一人一隻制限に反するとして受理しなかった一四隻のうち再申請された三隻につき受理したことは認めるが、その余の事実は否認する。

原告は、被告が許可手続取扱方針に従って申請するよう通知し、申請書を返戻したにもかかわらず、その後結局原告名義の七隻のヨット(原告管理以外の分をも計上すると二八隻)につき、申請をしないまま申請期間を経過し無許可となったもので、被告側において許可を留保した事実はない。

(五) 同(六)のうち、原告がその主張の日に理由書として本件未処理船の明細一覧表を提出したことは認めるが、その余の事実は否認する。

(六) 同(七)は争う。

3  同3の事実は不知。

三  被告の主張

仮に、原告主張の改正条例実施決定事項のような内容の合意が原、被告間でなされたとしても、被告は、次の各理由により、右合意に拘束されるものではない。

1  公法上の契約には、契約不自由の原則が行われ、行政庁は法律によって認められた権限を行使する権能と責務を有するが、この権限を処分する自由を有しないと解されるので、かかる合意が適法に成立するためには、法令に牴触しないだけでは足りず、関係法律上特に明示的に少なくとも黙示的に認められた場合に限るというべきところ、旧条例及び本件条例のいずれにもかかる合意を認める規定は明示的にも黙示的にも存しないから、右合意は無効というべきである。

2  油壷湾の特別泊地は、旧条例六条又は本件条例七条によって指定された知事が管理する漁港の施設であり、同時に地方自治法二四四条一項に定める公の施設である。したがって、被告は同条二項、三項によって住民に対し、特別泊地を公正公平に利用させなければならない責務を負うものであり、その停係泊許可はその趣旨に沿って運用されなければならない。

前記両条例の規定は、右地方自治法の趣旨を受けた規定であって、その文言においても一般的に禁止を解除する趣旨であり、反面、特定人に対する特別の配慮を禁ずる趣旨を含むものであることも明らかである。したがって、一般の住民は誰でも自由に申請ができ、公正公平な裁量の下に許可を受け得べきことを保障するものというべきである。原告の主張する改正条例実施決定事項は、右の趣旨に著しく反するものであり、この意味において違法無効であるといわなければならない。

3  油壷湾における特別泊地にかかる停係泊許可は、旧条例七条の二又は本件条例八条に基づいて知事の行う行政行為であり、許可権の行使は自由裁量にゆだねられてはいるが、裁量権は地方自治法の前記趣旨にのっとり、平等原則等公正公平の条理上の制約の下で行使されるべきものである。

原告は、多数の書類不備の申請書を提出し、あるいは、一人一隻の制約に反する多くのヨット等の申請をし、被告から行政指導として許可手続取扱方針に従って申請するよう通知し申請書を返戻したにもかかわらず、その後結局原告名義七隻のヨット(原告以外の分をも計上し、原告は二八隻と称している。)につき、申請をしないまま期間を経過し無許可となったものであって、被告側において許可を留保したような事実は全くない。許可は一年限りであり、毎年新たに申請すべきこととされており、これを数年にわたって許可を留保するようなことはありえない。

四  被告の主張に対する原告の認否

1  被告の主張1項のうち、原告主張の改正条例実施決定事項が一種の公法上の契約であることは認めるが、その余は争う。

2  同2項のうち、油壺湾の特別泊地が被告主張の条例所定の漁港施設であることは認めるが、その余は争う。

3  同3項のうち、油壺湾における特別泊地の停係泊許可が知事の行う行政行為であること、許可権は平等原則等公平、公正の条理上の制約の下に行使されるべきであることは認めるが、その余は争う。

第三証拠《省略》

理由

一1  漁港事務所長が、昭和五二年六月一日、原告に対し、同四七年度における油壺湾の特別泊地への停係泊に関する本件未処理船二八隻について、本件申請受理拒否をしたことは、当事者間に争いがない。

2  《証拠省略》によれば、漁港法に基づいて制定された本件条例(神奈川県漁港管理条例。昭和四四年一一月一日施行)は、ヨット等を泊地又は特別泊地に停係泊しようとする者は、知事の許可を受けなければならない(八条一項)、右許可の有効期間は一年以内とする(同条二項)と規定し、同施行規則は、右許可を受けようとする者は、同施行規則で定める様式の申請書に停係泊の期間を記入して、漁港事務所長に提出しなければならない(七条)と規定しているので、右許可を申請し、許可を受けた者であっても、許可の有効期間を経過した後に、更にヨット等を特別泊地に停係泊しようとする者は、改めて適式な許可申請書を提出し、これが許可を得なければならないものと解するのが相当である。

しかして、《証拠省略》によれば、油壺湾の特別泊地への停係泊に関し、昭和四七年度以降は、本件未処理船二八隻のうち、別紙目録記載の1の船(以下、同目録記載のヨット等は、同目録記載の番号のみで表示する。)につき同四九年度に、27、71、129につき同四八年度に、12、25、78、98、121につき同四七年度に、その余のヨット等につき同四六年度以前にいずれも期間は一年とする最終の許可のあったことが認められ、《証拠省略》によれば、右最終の許可に係る有効期間経過後は、右のいずれのヨット等についても、右停係泊に関し本件条例所定の適式な許可申請書が提出されていないことが認められる。

したがって、本件条例によれば、本件未処理船二八隻は、右各最終の許可に係る有効期間経過後は無許可船となり、油壺湾の特別泊地内に停係泊することが許されないことになるから、特段の事情のない限り、漁港事務所長が、原告に対し、昭和五二年六月一日にした本件未処理船二八隻についての本件申請受理拒否は違法のそしりを受けるべき筋合いのものではないというべきである。

そこで、以下、原告の主張する本件申請受理拒否の違法の根拠である改正条例実施決定事項及び本件回答について検討する。

二  改正条例実施決定事項について

1  請求の原因2(一)の事実は当事者間に争いがない。

2  請求の原因2(二)の事実中、改正条例実施決定事項(2)及び(4)の合意の存在は当事者間に争いがないので、その余の合意の有無につき判断する。

(一)  前記争いのない事実に加え、《証拠省略》を総合すれば、次の各事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

(1) 三崎漁港は昭和二六年一〇月一七日漁港法所定の第三種漁港に指定され、同三〇年九月九日被告は同漁港管理者に指定されたものであるが、油壺湾は同漁港の一部であり、漁船の避難港として利用されてきた。被告は漁港法に基づいて旧条例及び同施行規則を制定し、同三二年四月一日からこれを施行(ただし、同規則は同年一〇月一〇日)し、知事(ただし、同年一〇月一日からは三崎漁港管理事務所長、同四四年からは東部漁港事務所長となる。以下「県側」ということがある。)が三崎漁港の管理に当って来たが、同条例等によれば、ヨットを含む船舶の停係泊のために油壼湾の漁港施設を利用する者は知事への届出(利用料納付)が必要であった。ところが、その後、ヨット等の停係泊する数が次第に増加して、昭和四〇年ころには、約七、八十隻となり、漁船の避難に支障が生ずるようになった。

このころから、地元漁業者から県当局に対し、台風時の漁船避難の際の安全確保のため油壺湾内のヨット等の停係泊を規制してほしい旨の苦情が相次いだ。

(2) 県側は前記の事態に対処して油壺湾の安全を確保するため、ヨット等の停係泊につき、それまでの届出制を改めて許可制とする、ヨット等の停係泊は指定水域に限り、右水域内の許可定数を一二〇隻程度とする、同湾内の浅海を浚渫して船舶が係留できる水域を拡大する、などの方針をたてた。

(3) 県側は、地元漁業者に前記方針を説明してその了解を得るため、漁業組合との協議会を、昭和四二年八月一八日、同年一一月一四日、同四三年二月一四日、同年三月七日の四回にわたって開き、その結果、県側は、漁業組合に対し、油壺湾内に漁船の避難泊地を確保し、ヨット等の停係泊を一定数(定数制)に限り許可制として一定水域内に収容しその隻数を漸減させることを約し、漁業組合は補償を条件に指定水域内の漁業権を放棄することに同意した。

(4) 県側は、更に、油壺湾のヨット等の管理業者である原告、京急レストハウス、山下ボート店の各代表者及びヨット等の所有者数名との間で、前記被告の方針を説明して協力を求めるための打合せ会を開くことにした。

(5) その第一回は昭和四三年二月七日に開かれ、県側は、原告ら管理業者及び所有者に対し、ヨット等の増加による漁業組合からの苦情の状況と前記の方針を説明したが、原告らはヨット等の規制に強い難色を示し、話合いは物分かれに終わった。

(6) 当時原告ら管理業者が管理するヨット等の数は無届ヨットを含めて一八二隻に増加しており、浚渫工事後指定水域として予定した区域に収容可能と見込まれる最大限約一二〇隻をはるかに上回っていた。

(7) 県側では、当初、知事に届出をして過去三か年油壺湾に停係泊の実績があり、停係泊利用料を納付してきたいわゆる実績船約九五隻を基準にした数である一〇四隻を許可定数とする旨の案も出されたが、不許可とされた者との間の紛争をできるだけ回避するため、できるかぎり許可隻数を増やし、かつ管理業者及び所有者に陸上げ可能な船等については許可申請を自主的に辞退することを依頼して申請数は極力圧縮する方針をたてた。

(8) 県側は、昭和四三年五月二三日、原告ら管理業者との第二回の打合せ会を開き、規制区域の停係泊許可定数を一〇四隻とするが、管理業者及び所有者において陸上げ可能船は陸上げし、他港への回航可能船は回航するなどして申請隻数を自主的に圧縮してほしい旨協力を依頼し、自主辞退船の数が多く定数外の船が少数であれば、定数外のものも条件付で新たに許可定数に加えることもありうる旨説明した。

(9) 第三回の打合せ会は、昭和四三年五月二七日に行われ、県側は、前記収容可能隻数一二〇隻の一〇パーセント増しである定数一三二隻という目標を示し、これを受けて管理業者間で辞退可能な船の数につき話合いが行われた。その結果、原告管理の二五隻、京急レストハウス管理の一六隻、山下ボート店管理の一隻のヨット等についてはそれぞれ申請を辞退することとなり、県側にその旨回答した。そして、右申請辞退の結果、申請予定隻数は原告管理等の一〇六隻、京急レストハウス管理の一八隻、山下ボート店管理の四隻であり、これに所有者管理の船四隻を加え、一三二隻となった。

(10) 昭和四三年三月三〇日、被告は、旧条例の一部を改正(改正条例)し、従来の泊地を特別泊地、特別区域(水域)に指定し、そこに停係泊するヨット等の数を定数(一三二隻)とし、従来の届出制を許可制に改めた(この点は当事者間に争いがない。)。なお、この改正条例においても有効期間は長期一か年であったが、同期間経過の際には、適式な停係泊期間更新許可申請書を提出し、知事の許可を得て期間を更新することができるものと定められた(同条例七条の二第一項本文、第二項、同条例施行規則五条の二及び三)。

(二)  原告代表者は、原告ら管理業者と県側との前記打合せ会の交渉過程で、県側は当初、停係泊の許可を受けた者が停係泊を廃止したヨット等の分は定数から外し、漸次許可定数を減少させてゆく方針であったが、その後原告ら管理業者の要望により、定数枠内で船舶の入替え、名義変更を認めることを前提としたうえ、各管理業者に許可定数を割り当てる旨の方針とした旨供述する。

しかし、右供述は、あいまいな点が多く、しかも、原告代表者尋問によれば、原告代表者は、県側との前記打合せ会においても、主として原告が管理を委ねられていたヨット等の所有者の代理人としての立場で参加し、知事に届出をして停係泊をしているヨット等が許可船として取り扱われるように要請したものであること、また、原告の管理などしていたヨット等一〇六隻についても、改正条例施行の段階において同条例所定の適式な停係泊許可の申請がなされれば、県側において、これを許可するであろうとの一応の目途がついたこと、右隻数についても、許可定数として原告に割り当られたものではなく、毎年右適式な停係泊の許可申請と県側のこれに対する許可が必要であり、なお、原告の管理などする許可船が廃船などした場合には、何人でもヨット等の所有者であれば、適式な停係泊の許可申請をして許可を受けることができたこと、また、《証拠省略》によれば当時被告は油壺湾への漁船避難の確保という観点からヨット等の許可定数を制限する意向を持っていたのであり、原告ら管理業者の営業権の保障という観点からの考慮はされていなかったことが認められ、これらの事実に照らし、にわかに措信し難い。

また、原告主張の改正条例実施決定事項(5)の合意は、これを認めるに足りる証拠はない。

そうすると、前記(一)認定の原告ら管理業者と県側との間の交渉経過からは、申請辞退船数を除いた結果として、原告管理等のヨット等一〇六隻につき、改正条例及び同条例施行規則にのっとった適式な停係泊許可申請がなされれば、一応許可される見通しがついたことになるに過ぎず、右交渉の過程で、被告が原告ら管理業者に右改正条例等の定めとは関わりなく、当然に一定数の許可の保障をし、さらには当該船舶は毎年継続して許可する旨の約定がされ、原告ら管理業者の営業権を保障したものとする改正条例実施決定事項(1)、(3)、(5)の存在は、これを認めることができない。

(三)  してみると、改正条例実施決定事項の存在を前提とする原告の本件申請受理拒否の違法の主張は、その前提を欠き主張自体失当といわなければならない。

三  本件回答について

1  請求の原因2(三)、(四)の事実は当事者間に争いがなく、なお、ヨット等の特別泊地の停係泊許可の有効期間終了後の停係泊に関し、手続上は、改正条例の停係泊更新許可申請手続から本件条例の改めて停係泊許可申請をすることに変ったことは前記認定のとおりであるが、《証拠省略》によれば、前年度許可した船舶については実績が尊重され、県側としても、右許可期間終了にあたり、事前に所有者等に通知し、許可申請手続を促していたことが認められる。

2  請求の原因2(五)、(六)について

(一)  請求の原因2(五)の事実のうち、漁港事務所長が、昭和四八年二月ころ、前に書類不備として受理しなかった約三〇隻のうち十数隻、一人一隻制限に反するとして受理しなかった一四隻のうち三隻につき受理したことは、当事者間に争いがない。

(二)  前記争いのない事実に加え、《証拠省略》を総合すれば、次の各事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

(1) 昭和四六年ころには付近の小網代湾では漁業組合が、また、民間のヨット等の停係泊施設もできたが、料金が高いために油壺湾に停泊するヨット等が増加し出したので一人のために多数のヨット等の停係泊を認めることは極めて公平を欠く事態となったことに加え、同年中に原告所有名義で許可されていたヨットが第三者の所有であるということで、当該第三者から県側に紛争が持ち込まれたり、また、台風時等において停係泊を許可されているヨット等を所有者自らの責任において緊急に避難等の措置を講じさせるための管理責任者等を明確にして漁船の避難に支障が生じないようにするために、県側では、同四七年度(同四七年六月一日から有効期間一年)からのヨット等の停係泊の許可申請については一人一隻を原則としたうえ、同申請書に所有証明書及び管理委任契約書等を添付させることなどの取扱方針を定めたこと、しかし、原告は、同年六月ころ、原告の管理している多数のヨット等の停係泊許可申請にあたり、右関係書類等を添付していなかったものが多数あったため、県側ではその点の指摘をしたところ、原告代表者は三五件の申請書について後日これを是正して適式な許可申請をし直すということで右三五件に関する申請書類を持ち帰ったこと、県側は、原告に対し、同四七年九月一日、原告が同年度に許可申請したもののうち、同日時点で返戻のままとなっている右三五件及びその他許可申請書不提出分につき、同月一八日までに許可申請書を提出すべき旨、もし、同日までに提出のない場合には、許可申請の意思のないものとして処理する旨通知し、併せて右許可申請にかかるヨット等の所有者に対しても、電話等で早期に適式な申請手続をするよう督促した。

(2) その後、ヨット等の所有者から、県側に対し、原告に所有者名義の申請書を預けてあるのにそれが提出されていない旨の報告があったことなどから、県側では、昭和四七年九月二九日、直接所有者との間で打合せ会を開き、出席した七名の所有者に対し申請手続についての説明をし、ヨット等の管理関係を明らかにして適式な申請書を提出してほしい旨要請した。

(3) 県側は、その後、原告に対し、改めて一人一隻の方針に沿って許可申請をし直すよう通知するとともに、各所有者を対象に、申請手続の説明会を開催するなどして申請事務の促進を図った。

(4) こうして、ヨット等の所有者からも直接申請書が提出されるようになったが、主として所有証明の書類の整備に時日を要したため申請許可事務は昭和四八年三月まで続き、最終的に一〇八隻のヨット等に停係泊が許可された。

(5) 県側からの前記昭和四七年九月一日付の催告に基づいて、原告、原告代表者である福留清彦個人及び同人の妻名義で一四隻のヨット等についての停係泊の許可申請がなされたが、これは前記一人一隻の方針に合致しなかったので、県側において一応申請書を預かり、受理を留保していた。原告らとしても、右ヨット等の中には原告らの所有でないものもあるうえ、原告ら所有名義のヨット等についても、係留権付きの高い価格で売却するために所有しているにすぎないヨット等もあったので、右方針に逆うこともできず、同四八年二月、原告代表者から右各申請書の返戻方の申出があったので、県側はこれを返戻した。

(6) その後、右申請書返戻にかかるヨット等につき、原告代表者個人及び同人の妻名義で各一件、本来の船舶所有者名義で四件、それぞれ新たに申請がなされて停係泊が許可されたが、それ以外の分八件については何らの申請もなされなかった。

(7) しかし、その後も、本件未処理船を含む無許可船は、依然として油壺湾内に停係泊し無許可船は増加する一方であったため、被告は、昭和四八年八月六日、本件未処理船を含む同湾に在港する無許可ヨット等につき、同湾からの退去を勧告し、同年一二月一四日、同五〇年九月一〇日、各ヨット等の船体に退去勧告書を貼付した。

(8) 原告は、漁港事務所長に対し、昭和五一年六月二五日、適式な停係泊許可申請書ではなく、単に原告主張の本件未処理船二八隻の明細一覧表を提出し(この点は当事者間に争いがない。)、右二八隻につき停係泊を許可してほしい旨申し入れた。

(9) 県側は、昭和五二年一月三一日、無許可船に退去命令書を貼付した。

(10) 原告は、本件未処理船二八隻についても無許可船として前記退去命令書を貼付されたため、漁港事務所長に対し、昭和五二年三月二九日付上申書をもって右未処理船に対する処理方針について尋ねたところ、同所長は同年六月一日原告に対し本件条例所定の許可定数以上のヨット等の停係泊の許可をしない方針を明らかにし、了承されたい旨の回答をした(これが当事者間に争いのない本件受理拒否処分である。)。

(11) その結果、本件未処理船二八隻は、油壺湾から退去した。

(三)  本件未処理船二八隻の処理をめぐる顛末は前記認定のとおりであって、本件未処理船二八隻は、昭和四八年度以降、適式な停係泊の許可申請がなされず、したがって、停係泊の許可を受けないまま、油壺湾に停係泊し、最終的には自主的に同湾内から退去したものであるところ、原告は、漁港事務所の担当係官から許可申請書は不要であり理由書を提出すればよいと指示された旨主張し、《証拠省略》中にはこれに沿う記載があり、また、原告代表者の供述中にもこれに沿う部分があるが、右記載部分及び供述部分は前記認定の事実に照らしてたやすく措信し難いし、また、担当係官の指示により本件条例及び同条例施行規則が許可の前提として要求する許可申請書の提出が免除されると解すべき根拠はないから、既にこの点においても原告の右主張はそれ自体失当であるといわなければならない。

(四)  してみると、本件回答の存在を前提とする原告の本件申請受理拒否の違法の主張は、その前提を欠き失当であるといわなければならない。

四  以上の次第で、その余の点につき判断するまでもなく、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 古館清吾 裁判官 吉戒修一 河野泰義)

〈以下省略〉

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